役員報酬の決め方~知っておきたい5つのルール&シミュレーションのやり方~

役員報酬の決め方~知っておきたい5つのルール&シミュレーションのやり方~ 法人税

会社設立時には、役員の報酬を決めることが必要になります。

しかし、役員報酬を自由に決められると利益操作や法人税逃れにも使われるおそれがあるので、法律上のルールが決められています。

そのルールを知らずに役員報酬を決めてしまうと、知らない間にペナルティーを受けることもありますので注意が必要です。

本記事では、役員報酬の決め方や気をつけるべきポイントについて解説します。

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役員報酬の決定・変更の5つのルール

役員報酬を決定する流れや期間などは明確にルール化されています。基本的なルールはそれほど難しくないので押さえておきましょう。

1. 会社設立後 3ヶ月以内に決める

役員報酬は、会社設立後3ヶ月以内に決定しなければならないというルールがあります。売上の見通しが立たない創業期ですから役員報酬を決めることは難しいことかもしれません。

しかし、報酬の金額によって毎月の社会保険料や所得税・地方税などの税金が大きく変わるため、慎重に検討しましょう。

2. 毎月同額(定期同額)であること

役員報酬は、毎月定額が支払われることが必要です。また、額面の金額と手取り金額が同一であることも定期同額の条件となります。

後述しますが、このルールをよく知らずに多額の税金がかかる場合があるので注意しましょう。

3. 変更可能な期間

役員報酬を変更したい場合、会社設立時もしくは事業年度から3ヶ月以内であれば年度内一度だけ変更することができます。

縄文会計の中村
縄文会計の中村
「3カ月以内だから大丈夫」と勘違いして、2回変更すると定期同額給与にはならなくなってしまうので注意しましょう。
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4. 賞与を支給する場合の届出

役員にも賞与を支給することは可能です。

縄文会計の中村
縄文会計の中村
ただし、届け出が必要です。

これを『事前確定届出給与』といったりします。

提出期限は場合によって変わりますが、次のようになります。

区分 届出提出期限
(1)新設した法人が所定の時期に所定金額を支給することを定めた場合 設立の日以後2月を経過する日
(2)株主総会や社員総会等の決議によって所定の時期に所定金額を支給することを定めた場合 次のうちいずれか早い日が期限となる
a.その決議の日から1月を経過する日
b.会計期間開始の日から4月を経過する日
(3)臨時改定事由により新たに事前確定届出給与の定めをした場合 (1)の届出期限と臨時改定事由が生じた日から1月を経過した日とのうちいずれか遅い日

いずれも税務署に届出を行います。

5. 株主総会で決議を行う

役員報酬を支払うには、原則として株主総会の決議が必要です。ただし、実務上は株主総会で決めるのは役員報酬の総額のみで、個々の役員の報酬は取締役会または代表取締役で決めるよう一任されるケースがほとんどです。

株主総会や取締役会を開くときは、税務調査などできちんと説明できるよう、必ず議事録を作成・保存しておきましょう。

👇議事録の書き方・ひな形についてはコチラをご参照ください👇

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役員報酬額はいくらにすべきか

役員報酬は経費として計上することができますから、うまく設定することで節税効果を得ることもできます。しかし、経営者個人の税金についても考慮する必要があります。

法人としての支出

役員報酬を高くすると、法人としての利益が減り法人税が下がります。しかし、社会保険料は上がることに注意しましょう。

個人としての支出

個人の所得には累進課税制度が適用されるため、役員報酬が高くなるとその分所得税や住民税も上がります。

具体的にシミュレーションしてみよう

具体的にシミュレーションをしようにも、会社の資本金・利益の状況、報酬を受け取る役員の状況によっても有利不利が大きく変わるので中々難しいものです。

しかし、無料で役員報酬のシミュレーターがあったりするので、活用してみるといいです!

今回は経営サポートプラスアルファさんの役員報酬シミュレーションを使わせていただきます。

例えば資本金1000万円以下、年間利益400万円の場合に、役員報酬を年間120万円・240万円・360万円の3つのパターンでシミュレーションした結果がこちら👇

役員報酬シミュレーション結果①

(引用元:役員報酬シミュレーション© 経営サポートプラスアルファ)

役員報酬額に連動して法人・個人の支出に差が生じることが読み取れます。

上記のシュミレーションによれば、法人個人合わせてとにかく支出を最小限にしたいなら120万円に役員報酬額を設定するのが一番良いとわかります。

他にも法人の支出を抑えたければ360万円に、個人の支出を抑えたければ120万円に役員報酬額を設定すると良いとわかります。

しかし、法人と個人の両方のバランスを考えれば、役員報酬を240万円にすれば良いとも考えられます。

役員報酬は、法人と個人のどちらにお金を残したいかを考慮に入れた上で決めると良いでしょう。

役員報酬の相場を参考にする

自身の企業と似た業種の先輩起業家に相談するのも良い選択です。こちらは国税庁が発表した役員給与の平均額です。

役員給与の平均額

(参考:国税庁「第7表 企業規模別及び給与階級別の給与所得者数・給与額」『民間給与実態統計調査結果』

創業期のスタートアップの場合、資本金は1,000万円未満とすることが多いことを踏まえて参考にしましょう。

実際、売上げの乏しい創業期には年収250〜400万円程度で、資金調達後のアーリー期では600万前後、IPO前後になると1,200万円まで上がることが多いようです。

モチベーション維持のためにも、余剰利益が出るようになったら適切に増額するのが普通です。

役員報酬を決めるときの注意点

役員報酬を決める際に失敗しやすい注意点をご紹介いたします。

1. 正確に損益を予測する

1年間の売上を予測し、家賃や従業員の給与、光熱水道費などの固定費や仕入金額、粗利を算出した上で、役員報酬として計上できる金額を計算します。

もし、当初の予想に反して利益が多く出てしまうことになれば、法人税を多く納めなければならなくなり、資金繰りが圧迫される可能性もあるので注意しましょう。

逆に役員報酬を高く設定しすぎ、役員報酬を支払えない場合は、会社が個人に対して借金をするということになります。払えなかった分は、支払い余力ができた時点で個人に支払われることとなります。

2. 役員報酬として経費計上できるものは限られている

役員のために支払うお金であれば何でも経費に入れられる、というわけではありません。役員報酬で経費計上できるものは次の3つに限定されています。

  • 定期同額給与(毎月もらう役員報酬のこと)
  • 事前確定届出給与(賞与のこと)
  • 業績(利益)連動給与(客観的な業績をもとに支払う賞与のこと)

しかし、たとえば業績が好調だからといって、期中に役員報酬を増額した場合は、増額した金額は経費として計上できません。

また、事前確定給与(賞与)を税務署の事前届出どおりに支給しなかった場合は、原則として増額・減額に関わらず全額経費計上できないことになっています。

ただし、実務上は期中の課税所得に影響を受けなければその事業年度に関しては損益不算入の処理をしなくても良いとされています。

たとえば、3月が決算月となる法人が6月の株主総会で12月・6月にそれぞれ200万円を事前確定届出給与として支給することを決定した場合を考えてみましょう。

今年の12月は200万円を支給したが、翌年6月は資金繰りが苦しくて100万円しか支給できなかった場合、本来であれば300万円が損益不算入となります。しかし、今年度に限ってみれば予定通り支給できているため、翌年度の確定申告で100万円分を損益不算入とすれば良いとされています。

3. 使用人兼務役員は税務調査の対象になりやすい

「使用人兼務役員」の扱いにも注意が必要です。

使用人兼務役員とは、たとえば「取締役部長」のように、「取締役」という肩書がついていながら従業員と同じように営業活動や事務処理をこなすような立場のことを指します。

使用人兼務役員として認められるには、会社に役員として勤務すると同時に他の従業員と同じように仕事をしていることが条件となります。

代表取締役や副社長が使用人兼務役員となることは認められていません。

また、報酬を支払う際にも、

  • 役員報酬は定期同額給与として支払う
  • 賞与は事前に届け出た分しか支払うことができない
  • 給与と業務内容のバランスが他の従業員と同等であることが必要

といったルールが決められています。

このルールが守られていなければ、税務署から脱税していると疑われ、税務調査の対象となる可能性がありますので、くれぐれも注意しましょう。

会社設立から3ヶ月後に役員報酬を変更する場合

年度途中の役員報酬変更は原則認められていない

原則として、会社設立後3ヶ月を過ぎてから役員報酬を変更することは認められていません

なぜなら、年度途中で役員報酬が変更できてしまうと、利益が多く出たときには役員報酬を多く支払うなどの利益操作が行われる可能性があるからです。

もし、役員報酬を低く設定しすぎて生活に支障が出たことを理由に年度途中で役員報酬を増額した場合は、増額した分の金額は損金算入ができなくなります

逆に、財務状態を安定させるために会社に多く資金を残そうとして年度途中で役員報酬を減額した場合は、それまで支払われていた金額と減額した金額の差額分が損金算入できず、経費として計上できなくなります

例 1:増額した場合

最初の5ヶ月は役員報酬を月額30万円支払っていたが、6ヶ月目以降12ヶ月目まで月額60万円に増額した場合

役員報酬を4カ月目以降に増額した場合

→30万円(増額後の差額)× 7ヶ月分 = 210万円を経費として計上できない

例 2:減額した場合

最初の5ヶ月は役員報酬を月額30万円支払っていたが、6ヶ月目以降12ヶ月目まで月額20万円に減額した場合

役員報酬3カ月を過ぎて減額した場合

→10万円(減額前の差額)× 5ヶ月分 = 100万円を経費として計上できない

例外となるケース

しかし、以下のような場合には、例外的に年度の途中で役員報酬を増額したり減額したりすることが認められています。

役員報酬を増額できる場合

職責変更により役員が昇格した場合は、設立後3ヶ月を経過した後も役員報酬の増額が認められます。

ただし、増額によって全体の役員報酬の金額が、株主総会で決議された役員報酬の金額もしくは上限額を上回る場合には、新たな株主総会決議が必要です。

役員報酬を減額できる場合

役員報酬を減額できる代表的なケースとしては、以下の4つがあげられます。これらのケースでは新たな株主総会の決議は不要です。

  • 降格した場合(例:代表取締役が一線を退き会長に就任した場合など)
  • 病気・ケガなどにより長期にわたり業務を行うことができなくなった場合
  • 不祥事を起こしたことによって懲戒処分を受けた場合
  • 会社の業績が悪化した場合

期の途中での役員報酬変更の方法については、以下の記事でより詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

まとめ

役員報酬を決める際には、「自分がいくらほしいのか」ということだけでなく、法人税や社会保険料とのバランスも考慮することが大切です。

また金額決定のタイミングも非常に重要だということがわかりしたね。

これから起業して会社を設立する場合には、ルールを把握しつつ適切に役員報酬を決めましょう!

難しい場合は、是非税理士などの専門家に相談しながら決めてください。

それでは、また!



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