要注意!自宅買換時の居住用3000万円控除と住宅ローン控除の選択を解説

所得税

自宅を買換える場合、例えば、

  • 現在住んでいる自宅を売却し、新たに自宅を購入する場合
  • 先に新しい自宅を購入し、その後に以前住んでいた自宅を売却する

ときには、「居住用3,000万円控除の特例と住宅ローン控除のどちらを利用するのか」の検討が必要です。

なぜなら、上記の場合は居住用3,000万円控除と住宅ローン控除は併用することができないからです。

しっかりと検討せずに申告を行ってしまうと、取り返しがつかない状況になることも…

今回は、自宅の買換え時の居住用3,000万円控除と住宅ローン控除の関係性、どちらを利用したほうがいいのかの検討方法、そして既に申告した場合の対処方法について解説します。

自宅の買い替えを検討されている方は、是非最後までお読みください!

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自宅の買換えとは?

自宅の買換えとは、

  • 現在住んでいる自宅を売却し、新たに自宅を購入する場合
  • 先に新しい自宅を購入し、その後に以前住んでいた自宅を売却する

のいずれかを言います。

居住用3,000万円控除と住宅ローン控除は併用できない

自宅の買換えの際に居住用3,000万円控除と住宅ローン控除は、併用することができません。

なので「どちらの方が税金が安くなるのか?」検討する必要があります。

そのためにも、まずは制度の概要を押さえておきましょう。

居住用財産3,000万円控除の特例

居住用3,000万円控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)とは、「自宅を売却した場合」に所有期間に関係なく売却益(譲渡所得)から最高3,000万円まで控除ができる特例です。

No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁

自宅を売却する際には必ず検討したい超お得な特例です。

住宅ローン控除

一方、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)とは、住宅ローンなどを利用して「自宅を取得」し、一定の要件を満たした場合に、年末ローン残高に応じて計算した金額を所得税から控除することができる制度です。

No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁

2つの特例の併用が認められない理由

居住用3,000万円控除は自宅を売却した場合の特例であるのに対し、住宅ローン控除は自宅を取得した場合の制度ですが、この2つの制度は併用することができません。

なぜなら、住宅ローン控除の要件には「居住年およびその前2年の計3年間に次に掲げる譲渡所得の課税の特例の適用を受けていないこと。」と定められているからです。

(引用元:No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)©国税庁

また、「居住年の翌年以後3年以内に居住した住宅(住宅の敷地を含みます。)以外の一定の資産を譲渡し、当該譲渡について上記6に掲げる譲渡所得の課税の特例を受けていないこと」と定められています。

つまり、新たに取得した自宅に実際に住んだ年とその前2年、さらに後3年の間にこれまで住んでいた自宅を売却し、居住用3,000万円控除を受けた場合には、住宅ローン控除が利用できないということになり、両方の制度を併用することはできなくなるわけです。

自宅の買い替えを行う場合にはシミュレーションが必要

上記の期間、居住用3,000万円控除と住宅ローン控除の併用はできないため、自宅の買い替えを行う場合には、どちらが税務上有利になるのかの判定を行う必要があります。

居住用3000万円控除が有利な場合の具体例

例えば、先祖代々の土地に自宅を構えているなど、長期間保有している自宅の場合、売却益が大きくなることが多く、居住用3,000万円控除を利用したほうが有利になることが多いです。

具体的には自宅の売却益が3,000万円以上(長期保有)の場合には、居住用3,000万円控除を利用することで約600万円の譲渡所得にかかる税金(所得税・住民税)を抑えることができます。

住宅ローン控除が有利な場合の具体例

一方で、新たに取得する自宅の住宅ローンの金額が大きい場合には、住宅ローン控除を利用したほうが有利になるケースがあります。

ただし、住宅ローン控除額は、住宅の種類・住宅取得の年・ご家族構成等により控除額が変わってくるため、要件を確認の上、慎重にその節税効果を比較する必要があります。

シミュレーション方法

居住用3,000万円控除と住宅ローン控除のどちらかを選択する場合、それぞれシミュレーションを行う必要があります。

居住用3,000万円控除のシミュレーション

居住用3,000万円控除のシミュレーションには、譲渡価格(売却額)、従前の自宅の取得費、譲渡にかかる費用、従前の自宅の保有期間が必要です。

不動産の譲渡所得の計算式

譲渡所得 = 不動産売却による収入金額– (取得費 + 譲渡費用)

 

例:これまで住んでた自宅の所有期間が5年以上、譲渡価額が5,000万円、その自宅の取得費3,000万円、譲渡にかかる費用300万円である場合

居住用3000万円特例を利用しない場合

5,000万円-(3,000万円+300万円)=1,700万円(課税譲渡所得)

所有期間が5年超の場合:

1,700万円×20.315%=345万3,550円

居住用3000万円特例を利用する場合

5,000万円-(3,000万円+300万円)=1,700万円(課税譲渡所得)

所有期間が5年超で居住用3000万円特例を利用する場合:

(1,700万円-3,000万円)×20.315%=0

居住用3,000万円控除の適用を受けると、課税譲渡所得から3,000万円控除することになるため、譲渡所得税全額の約345万円の税金が控除されたことになります。

住宅ローン控除のシミュレーション

住宅ローンは年末残高の0.7%が所得税から控除されることになるため、各年の年末残高を把握する必要があります。控除期間は13年間ないし10年間です。

(引用元:No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除©国税庁

例:住宅ローンの額4,000万円、認定長期優良住宅に該当、2024年5月に入居、ローン返済開始(ローン返済者の所得税は住宅ローン控除額以上であるものとする)

ローン控除年数 住宅ローン残高 住宅ローン残高×0.7%
1年目 39,395,638 275,700
2年目 38,479,226 269,300
3年目 37,550,827 262,800
4年目 36,610,288 256,200
5年目 35,657,448 249,600
6年目 34,692,145 242,800
7年目 33,714,220 235,900
8年目 32,723,505 229,000
9年目 31,719,835 222,000
10年目 30,703,039 214,900
11年目 29,672,946 207,700
12年目 28,629,382 200,400
13年目 27,572,170 193,000
住宅ローン控除合計 3,059,300

シミュレーションの比較

居住用3,000万円控除と住宅ローン控除でどちらが有利になるか比較します。例の場合では、居住用3,000万円控除で有利になる税金は約345万円であるのに対し、住宅ローン控除では、総額で約306万円の税金が有利になる計算になるため、居住用3,000万円控除を選択したほうが有利になることがわかります。

既に特例の利用や控除を確定申告で行っていた場合の対応

これまで住んでいた自宅の売却と新たな自宅の取得が同一年に行われていれば、どちらの制度を利用するのかを比較的簡単にシミュレーションすることができます。

しかし、実際は自宅の取得が先になってしまい、翌年以降に従前の自宅の売却が行われたり、反対に従前の自宅の売却が先に行われ、翌年以降に新たな自宅を取得したりするケースも多くあります。

これらのケースでは、特例や制度の利用について慎重に対応しなければ取り返しのつかない状況になってしまいますので注意しましょう。

取返しのつく場合:新たな自宅を取得し、住宅ローン控除を利用した後に従前の自宅を売却したケース

新たな自宅を取得し住宅ローン控除を利用した後、翌年以後に従前の自宅を売却し居住用3,000万円控除の方が有利だったと判明した場合には、修正申告により対応することが可能です。

具体的な例をあげると、令和5年に新しい自宅を購入し、住宅ローン控除の適用を受け、令和7年に従前の自宅を売却した場合に自宅が予想よりも高く売却することができ、住宅ローン控除を受けるよりも居住用3,000万円控除を受けたい場合には、令和5年分と令和6年分の修正申告をすることで対応が可能です。

令和5年分と令和6年分の確定申告書から住宅ローン控除の部分をなくして修正申告を行い、追加で発生する所得税の納税を令和6年分の確定申告書の提出期限までに納付を行うことで居住用3,000万円控除を受けることができます。

取返しのつかない場合:従前の自宅を売却し、居住用3,000万円控除を利用した後に新たに自宅を取得したケース

先に従前の自宅を売却し、売却益に対して居住用3,000万円控除を受け、その後に新たな自宅を取得した場合には、住宅ローン控除を受けることはできません。

「新たな自宅を取得し、住宅ローン控除を利用した後に従前の自宅を売却した場合」と同じように、修正申告で対応できるのではないかと考えることもできそうなものですが・・・

実は、居住用3,000万円控除の申告は「適正な申告」であるため修正申告ができる理由に該当せず、修正申告により特例の適用をなかったことにできないのです。

これについては、国税庁の質疑応答事例「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例の適用の撤回の可否」で、「一旦、適法に特例の適用を受けたものについては、その撤回は認められません。」と明示されているので、撤回は難しいでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか?

自宅を買い替える場合には、居住用3,000万円控除と住宅ローン控除のどちらが有利になるのかをしっかりと検討することが大事です。

特に、売却と取得の年が違う場合で、売却が先になってしまうケースでは、修正申告によるやり直しができないため、慎重な検討が必要になります。

その検討の際に、この記事がお役に立てれば幸いです。

今後も税務に役立つ記事を発信していきますので、またお越しいただければ嬉しいです。

それでは、また!

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