居住用財産3000万円控除と併用できる10年超所有軽減税率の特例を解説

所得税

不動産の売却時には様々な税金がかかりますが、一定の条件を満たせば税負担を大幅に軽減できる特例があります。

特に、自宅を売却する際には、新たな住宅を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比べて特殊な事情があり、その担税力が弱いという理由から、税金の負担を軽減するための特例がいくつかあります。

その中でも今回は、10年以上保有した自宅を売却する場合に利用できる「10年超所有軽減税率の特例」について解説していきます。

この「10年超所有軽減税率の特例」は居住用財産の3,000万円控除と併用することができ、自宅を売却する際には必ず検討したい特例です。

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ただし、所有期間のカウント方法など、適用要件に注意して利用しなければ、いざ売却した際に「10年超所有軽減税率の特例が使えない」といった状況に陥ってしまいます。

なので、今回は概要から適用要件、注意点まで詳しく解説していきますので、自宅の売却を検討している方は、ぜひ最後までお付き合いください。

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「10年超所有軽減率の特例」とは?

10年超所有軽減税率の特例は、自宅を10年以上所有している場合に適用される特例です。

自宅などの不動産を売却した場合、売却金額から取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡所得に所得税(復興特別所得税を含む)と住民税が課税されます。

ここで「10年超所有軽減率の特例」を利用すると、6,000万円以下の譲渡所得部分の所得税と住民税の税率が軽減され、自宅の売却にかかる税金の負担が少なくなります。

<10年超所有軽減率の特例の税率>

所得税(復興特別所得税を含む) 住民税 合計
通常の譲渡所得(5年以上の長期所有) 15.315% 5% 20.315%
10年超所有軽減率の特例 譲渡所得6,000万円以下 10.21% 4% 14.21%
譲渡所得6,000万円超の部分 15.315% 5% 20.315%

10年超所有軽減率の特例は、譲渡所得6,000万円以下という制限はあるものの、通常の譲渡所得にかかる税率より6.105%も少ない税率で税金の計算をすることができます。

たとえば、自宅を売却して譲渡所得が1,000万円発生した場合には、

《特例を利用しない場合》

1,000万円×20.315=200万3,100円

《特例を使用する場合》

1,000万円×14.21%=140万2,100円

特例を利用することで1,000万円×6.105%=61万1,000円の税金の負担が少なくなるため、非常に有効な節税対策と言えるでしょう。

10年超所有軽減率の特例を利用するためには

10年超所有軽減率の特例を利用するためには、次の7つの適用要件を満たす必要があります。

10年超所有軽減税率の特例6つの適用要件
  1. 自宅の売却であること
  2. 自宅を10年以上所有していること
  3. 売却先が親子や配偶者など特別な関係にある者でないこと
  4. 住まなくなった日から3年後の12月31日までに売却すること
  5. 自宅を取り壊して更地にした土地を売却する場合には、所有期間と売買期限に関する3つの条件を全て満たすこと、賃貸業などに利用していないこと
  6. 居住用3000万円控除以外の買換えや交換などの特例を受けていないこと

参考:「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」©国税庁

それぞれの要件を詳しく見ていきましょう。

要件①:自宅の売却であること

居住用財産である自宅の売却である必要があります。

日常的に住んでいない別荘などの売却にこの特例を利用することはできません。

要件②:所有期間が10年を超えていること

特例を利用するためには、売却する自宅を所有している期間が10年を超えていなければなりません。

ここで大切なポイントは「居住期間ではないこと」と「所有期間の年数のカウント方法」です。

ポイント1:居住期間ではなく”所有期間”

10年超とは所有期間のことであり、居住期間ではありません。

ただし、自宅に関しての特例であるため、短期間しか居住していないケースでは自宅として認められず、利用することができない可能性があります。

ポイント2:所有期間の年数のカウント方法

所有期間の年数のカウント方法については「売却した年の1月1日時点」で判断します

分かりやすく言えば、自宅を購入して1月1日を11回迎えていれば10年超の所有期間になります。

また、所有期間は累計で10年超ではありません。

例えば、自宅を一度売却し、同じ物件を買い戻した場合の所有期間は通算できません。一度売却すると、その時点で所有期間はリセットされ、買い戻した日から10年超でなければ特例を受けることはできません。

あくまでも10年超を継続保有しなければ利用できない特例になりますので注意しましょう。

要件③:売却先が親子や配偶者など「特別な関係がある人」でないこと

売却した不動産の買主が売主と「特別な関係がある人」の場合は、10年超所有軽減税率の特例を利用できません。

「特別な関係がある人」とは、特別な関係である人とは、配偶者や兄弟などの親族、またはその親族などが経営している法人などのことを言います。

要件④:住まなくなった日から3年後の12月31日までに売却すること

自宅に住まなくなり、空き家になった後に自宅を売却しても10年超所有軽減税率の特例の利用が可能です。

ただし、期限が設けられており、空き家となった日から3年目の12月31日までに売却をしなければなりません

たとえば、2025年5月1日に空き家にした自宅を売却する場合、2027年12月31日までに売却しなければ、この特例は利用できません。

要件⑤:自宅を取り壊して更地にした土地を売却する場合には、所有期間と売買期限に関する3つの条件を全て満たすこと

住んでいた家屋を取り壊し、更地にして売却する場合には、次の3つの条件を満たす櫃ようがあります。

  • 更地にした年の1月1日時点で10年以上所有していること
  • 自宅を解体した日から1年以内に不動産売買契約を締結すること
  • 自宅に住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却すること

家屋を取り壊して1年以内に譲渡契約を交わし、かつ3年後の12月31日までに売却する必要あります。

また、家屋を解体して譲渡契約の締結日までの間に駐車場などとして賃貸している場合は特例の適用を受けることはできませんので、注意しましょう。

要件⑥:居住用3000万円控除以外の買換えや交換などの特例を受けていないこと

以下の特例の適用を受けている場合、「10年超所有軽減税率の特例」は適用できません。

「10年超所有軽減税率の特例」が利用できなくなる特例
  • マイホームの買い換えやマイホームの交換の特例
  • マイホームの譲渡損失についての損益通算および繰越控除の特例
  • その他、税が軽減される特例

 

また、逆に「10年超所有軽減税率の特例」を受けると、いわゆる住宅ローン控除など受けられなくなる特例もあります。

具体的には、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除または認定住宅新築等特別税額控除については、入居した年、その前年または前々年に、この軽減税率の特例の適用を受けた場合には、その適用を受けることはできません。

居住用3000万円控除の特例と併用ができます!

10年超所有軽減税率の特例の最大の特徴は「居住用財産3000万円特別控除の特例と併用することができる」ことです。

居住用財産3000万円控除の特例とは、自宅を売却した場合に譲渡所得から最大で3,000万円控除することができる特例です。

他の特例よりも節税効果が大きいため、自宅を売却する際には必ず検討が必要になる特例でもあります。

10年超所有軽減税率の特例と節税効果の高い居住用3000万円控除の特例を併用することにより、自宅の売却にかかる税金を大きく軽減することができます。

居住用財産3000万円控除の特例について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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居住用財産3000万円控除の特例と併用した場合の計算方法

居住用3000万円控除の特例と併用した場合は、最初に居住用3000万円控除の特例により譲渡所得から3,000万円を控除し、その後に10年超所有軽減税率の特例を利用して税額の計算を行います。

具体例《売却額1億3,000万円、取得費8,000万円、譲渡費用600万円でマイホームを売却した場合》

上記の条件で両方の特例を適用した場合の計算をみていきます。

①譲渡所得の計算

売却額1億円-(取得費5,500万円+譲渡費用500万円)=4,000万円

②居住用3000万円控除の特例の適用

譲渡所得4,000万円-特別控除3,000万円=1,000万円

③軽減税率を適用した税額の計算

1,000万円×税率(所得税+住民税)14.21%=142万1,000円

10年超所有軽減税率の特例と居住用3000万円控除の特例を利用しなかった場合は812万6,000円になりますから、その差額は670万5,000円です。

ご覧の通り、その差は歴然です。

10年超所有軽減税率の特例の申請には確定申告が必須

10年超所有軽減率の特例を受けるためには確定申告が必要になります。

申告の際には、次の書類を添付しなければなりません。

6つの必要資料

確定申告で10年超所有軽減税率の特例の申請をするときに必要な書類と、入手方法は表のとおりです。

必要書類 取得方法
売却した不動産の不動産売買契約書類 不動産会社から取得
売却した不動産を購入したときの売買契約書類 不動産会社から取得
仲介手数料や印紙税など購入・売却諸費用の領収書 不動産会社から取得
売却した不動産の登記簿謄本(登記事項全部証明書) 売却した不動産を管轄する法務局で取得
戸籍の附票の写し(住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合) 戸籍の本籍を置いている市区町村で取得
マイナンバーカード 住民票を置いている市区町村で取得

10年超所有軽減率の特例を利用する場合の注意点

10年超所有軽減率の特例を利用する場合には注意点がありますので押さえておきましょう。

縄文会計の中村
縄文会計の中村
すでに解説したことばかりですが、間違えやすいので再掲します!

所有期間のカウント方法

適用要件で解説しましたが、「所有期間のカウント方法」には十分気をつけましょう

この特例は「売却した年の1月1日時点」で10年を超えている必要があります。

つまり、カレンダー通りの計算では10年を超えている場合であっても、売却した年の1月1日時点では10年を超えておらず、特例が利用できなかったというケースも考えられるわけです。

何度も念を押しますが、所有期間のカウント方法には注意しましょう。

また、レアケースではありますが、一度手放して買い戻した自宅については所有期間が通算されず、買い戻した日からのカウントになりますので、ご注意ください。

確定申告が必要

10年超所有軽減率の特例を受けるためには「確定申告」が必要です。

自宅を売却した年の翌年2月15日から3月15日までに確定申告書を作成し、必要書類を添付して提出、所得税の納税が必要になります。

不動産を売却したら自動的に計算されるものではありませんので、譲渡所得が発生する場合には必ず確定申告を行いましょう。

おわりに

いかがだったでしょうか?

今回は『居住用財産3000万円控除と併用できる10年超所有軽減税率の特例を解説』について解説いたしました。

自宅を含めた不動産の譲渡には、様々な特例があり、どの特例を利用するかによって税負担が異なります。

特に、今回ご紹介した10年超所有軽減率の特例は、居住用3000万円控除の特例と併用することで高い節税効果を発揮する、自宅を売却する際には、絶対におさえておきたい特例です。

しかし、注意しなければならないポイントも多くあるため慎重に検討する必要があります。

その際にこの記事がお役に立ちましたら、大変うれしいです。

それでは、また!

 

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