土地や建物を所有しているとき、地方自治体から固定資産税が課税されることはよく知られているかと思います。
一方で、土地や建物以外の事業用の資産がある場合に、償却資産税がかかることがあります。
今回は、償却資産申告について、償却資産申告の概要や課税対象となる償却資産、償却資産申告書の内容などを解説していきます。
償却資産申告書とは?
償却資産申告書とは、個人や法人が所有する償却資産について、地方自治体が適切に固定資産税を計算できるよう、所有者自らが償却資産を申告するための書類です。
償却資産申告書の記載対象は事業用の償却資産であり、土地や建物については申告書を提出する必要はありません。
これは、土地や建物は、登記により不動産の状況を確認できる一方で、償却資産に関しては土地や建物のような登記がないためです。
所有者自らが地方自治体に対して償却資産の所有を明らかにする必要があり、そのために「償却資産申告書」が存在しています。
償却資産申告が必要な人は?
個人や法人で事業を行っている方のうち、その年の1月1日現在で、その事業に用いることができる土地や家屋以外の事業用資産(=償却資産)をお持ちの方は、毎年1月1日現在の所有状況を申告する必要があります。
例えば、前年の12月31日に取得した資産は翌1月1日に所有していることになるので申告が必要ですが、取得時点が1月2日だと、翌年の申告対象となり申告が不要になります。
本年2025年でいうと2025年1月1日現在で償却資産を所有したことがない方は、2025年1月中の償却資産申告は不要です。
償却資産申告書を提出しない場合どうなるか
正当な理由なく償却資産税を申告しない場合、地方税法第386条と自治体の条例により10万円以下の過料が課されることがあります。
無申告とならないよう、提出期限や申告すべき資産状況は把握しておきましょう。
また、虚偽の申告についても地方税法第385条の規定により罰則が設けられており、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が課される可能性があります。
そのため、対象の償却資産については正しい認識と正確な処理が必要です。
それでは、償却資産の対象についてみていきましょう。
償却資産の対象となるもの
償却資産税の申告対象は、毎年1月1日時点で所有している償却資産です。
償却資産の主な対象資産は下表のとおりです。
償却資産の種類 | 内容 |
---|---|
構築物 | 舗装路面、庭園、門・塀・緑化施設等の外構工事、看板(広告塔等)、ゴルフ練習場設備、受変電設備、予備電源設備、その他建築設備、内装・内部造作等 |
機械及び装置 | 各種製造設備等の機械及び装置、クレーン等建設機械、機械式駐車設備(ターンテーブルを含みます。)等 |
船舶 | ボート、釣船、漁船、遊覧船等 |
航空機 | 飛行機、ヘリコプター、グライダー等 |
車両及び運搬具 | 大型特殊自動車(分類記号が「0、00~09、000~099」「9、90~99、900~999」の車両)等 |
工具、器具及び備品 | パソコン、陳列ケース、看板(ネオンサイン等)、医療機器、測定工具、金型、理容及び美容機器、衝立等 |
なお、申告対象資産の課税標準額の合計が免税点(150万円未満)となる場合、固定資産税は課税されませんが申告は必要です。
また、赤字のため減価償却を行っていない資産や、耐用年数が経過して償却が済んでいる資産なども申告の対象となります。
どのような設備の種類が申告の対象になるかは、少し難しい面もあるので、申告前に各自治体のホームページや送付されてくる「償却資産税の手引き」を確認し、参考にするとよいでしょう。
償却資産申告書の提出から納税までの流れ
償却資産税の申告書作成から納税までの一連の流れを紹介します。
償却資産税の申告から納税までは、以下の8ステップで完了です。
流れ | 内容 | |
---|---|---|
1 | 償却資産申告書の提出 | 1月1日時点で所有している償却資産について申告書を作成し、同年1月31日までに提出する |
2 | 償却資産の評価と税額の決定 | 申告内容をもとに、自治体側が資産ごとの評価額を算出し、税額を決定する |
3 | 課税台帳への登録・公示 | 自治体側が資産の価格などを償却資産課税台帳に登録し、その旨が公示される |
4 | 課税台帳の閲覧 | 償却資産台帳に登録された価格などが閲覧可能になる |
5 | 審査の申出 | 償却資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合は、審査の申し立てができる |
6 | 納税通知書の交付 | 6月上旬に納税通知書が発行される |
7 | 審査の請求 | 課税内容に不服がある場合は、審査の請求ができる |
8 | 納税 | 通常4回の納期で納付する(東京23区では6月・9月・12月・翌2月) 具体的な納期は、納税通知書等でお知らせされる |
(参考:東京都主税局「固定資産税(償却資産税)」)
なお、不服申し立てをした場合は、一旦決定されている金額で納税することになります。
審査の結果、申し立ての内容が認められて納税額に変更が生じた場合には、後日還付もしくは納付の案内が届きます。
償却資産申告書の書き方
償却資産申告書の書き方には、以下の2つがあります。
- 一般方式
- 電算処理方式
一般処理方式とは?
一般方式は、初年度に申告対象の全償却資産を申告し、2年目以降は償却資産の増加や減少についてのみ申告する方法です。
償却資産の評価額は自治体側が行うため、申告に必要な内容が簡易的です。
電算処理方式とは?
電算処理方式は、申告者が自ら所有する申告書の作成ソフトを用いて所有資産の評価額を算出し、提出する方法です。
償却資産の取得が頻繁に行われる法人などには適しています。
どちらの方法を選択すべきか?
基本的には申告者が資産に関する必要な情報を提出し、自治体側で評価額を算出する一般方式のほうが簡単です。
ただし、法人などで償却資産の増減の多いケースには専用の申告書作成ソフトを用いた場合が容易になるケースもあります。
なので、償却資産の増減が多くない場合は一般方式が便利ですが、法人などで償却資産の増減の多いケースでは、作成ソフトなどを使い電算処理方式で申告する形がおススメです。
以下では、一般方式で提出する場合の償却資産申告書の内容についてみていきましょう。
償却資産申告書の内容と書き方
償却資産申告書には、償却資産の申告書の中で表題部分といえる『償却資産申告書(償却資産課税台帳)』、『種類別明細表(増加資産・全資産)』、『種類別明細表(減少資産)』があります。
償却資産申告書(償却資産課税台帳)
(引用元:償却資産申告書(償却資産課税台帳)(第26号様式)一般方式用©東京都主税局)
償却資産申告書は、償却資産の申告書の中で表題部分といえる申告書です。記載が必要な部分は、提出日をはじめ所有者情報、法人番号、事業種目、設立日のほか、下記の内容です。
項目 | 内容 |
---|---|
短縮耐用年数の承認 | 短縮耐用年数の承認を受けている場合は有を選択。一般的には無を選択 |
増加償却の届出 | 増加償却の届出を申請している資産があれば有を選択。一般的には無を選択 |
非課税該当資産 | 学校法人が教育に使用する資産や公益法人が使用する資産、社会福祉法人が使用する資産など、該当するものがある場合は有を選択。一般法人には該当資産がほとんどないため無を選択 |
課税標準の特例 | 課税標準の特例を受けている資産がある場合は有を選択。ない場合は無 |
特別償却又は圧縮記帳 | 法人税の申告で特別償却や圧縮記帳を摘要している場合は有、ない場合は無 |
税務会計上の償却方法 | 税務会計上の償却方法は、個人事業主は基本的に定額法のみ。法人は建物及び建物付属設備が定額法でそれ以外は基本的に定率法 |
青色申告 | 法人、個人とも青色申告の承認を受けていれば有、白色の場合は無を選択 |
取得価額 | 資産ごとに償却資産明細の「増加資産・全資産」の合計額を参考に記載 |
評価額 | 資産ごとに下記の計算式をもとに計算した金額を記載 ・前年中に取得したもの 「評価額=取得価額×前年中取得分の減価残存率」 ・前年よりも前に取得したもの 「評価額=前年度評価額×前年前取得分の減価残存率」 |
課税標準額 | 評価額をもとに1,000円未満を切り捨てた額 |
種類別明細表(増加資産・全資産)
(引用元:種類別明細書(増加資産・全資産用)(第26号様式別表一)一般方式用©東京都主税局)
所有者名や明細書の枚数、年度の記載のほか、種類別明細表で記載が必要な項目は下記のとおりです。
項目名 | 記載内容 |
---|---|
資産の種類 | 1.構築物 2.機械及び装置 3.船舶 4.航空機 5.車両及び運搬具 6.工具、器具及び備品 から1つ選択 |
資産の名称 | 左詰めで記載(例:冷暖房用機器) |
数量 | 全く同じものを同時に設置した場合は購入数を記載(多くの場合は1を記載) |
取得年月日 | 年号は1.明治 2.大正 3.昭和 4.平成 5令和 から選択。事業で使用開始した日付を記載 |
取得価額(手数料や据付料など付随費用を含む) | 資産を購入した金額を記載(消費税の課税事業者の場合は税抜き、免税事業者の場合は税込み価格) |
課税標準額 | 取得価額を参考に1,000円未満を切捨てた額 |
課税標準の特例 | 特例を適用する場合に記載(例:2/3特例を受ける場合は203 など) |
耐用年数 | 減価償却資産の耐用年数等に関する省令により該当するものを記載 |
増加事由 | 1.新品取得 2.中古取得 3.移動による受入れ 4.その他 から選択 |
摘要 | 増加事由で「3. 異動による受入れ」を選択した場合、どこから移動したものか記載(例:大阪支店から受入れ など) |
課税標準の特例を適用する場合は、資産ごとに記載が必要です。記載方法については、変更事項があっても適切に対応できるよう、毎年公表される手引きを参考にされることをおすすめします。
種類別明細表(減少資産)
(引用元:種類別明細書(減少資産用)(第26号様式別表二)一般方式用©東京都主税局)
種類別明細表の増加資産・全資産の用紙と記載事項はほぼ同じです。
異なる部分は下記のとおりです。
項目名 | 記載内容 |
---|---|
移動区分 | 1.減少 2.修正 から1つ選択 |
減少等の事由 | 1.売却 2.除却 3.移動 4.その他 |
摘要 | 増加事由で「4. その他」を選択した場合、に理由を記載(例:盗難 など) |
たとえば、資産の名称に誤りがあった場合は移動区分で修正を選択し、誤っているものを記載して、登録資産を消去します。
減少等の事由でその他を選択した場合には、摘要欄に必ず事由の記載が必要です。
償却資産税の額
償却資産税の額は、課税標準額に税率をかけたものです。
一般的には1.4%ですが、自治体により異なるため確認しましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は、償却資産申告の基礎知識から具体的な申告書の内容まで解説してきました。
ポイントを整理すると、
- 償却資産申告は、毎年1月1日現在に事業用の土地・建物以外の固定資産(=償却資産)を所有する個人・法人が1月末までに申告を行う必要があります。
- 申告対象となる償却資産には、建築物、機械装置、工具・器具・備品などあります。
- 償却資産の種類については、一部判断が難しいところがあります。自治体から送付される「償却資産申告の手引き」に詳しい内容が載っていますので参考にしましょう。
- 償却資産の課税標準額の合計が150万円未満だと免税となりますが、申告自体は必要です。
- 申告方法には一般方式と電処理方式があり、資産の増減が少ない場合は一般方式、増減が多い場合は電算処理方式が適しています。ただし、電算処理方式は専用のソフトが必要です。
- 無申告や虚偽申告には罰則があるため、正確な申告を心がける必要があります。
といったところです。
また、償却資産申告にあたっては、申告の前に事前にチェックしておいた方がいいポイントもあります。詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
この記事が皆さんの償却資産申告のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、また!
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