前回、法人成りのメリット・デメリット、
そして法人成りの検討タイミングについて書かせていただきました!
法人成りをしたとき、
個人事業で使っていた資産とか、
未返済の借入金はどうしたらいいでしょう?
そのまま法人に引き継いじゃっていいのかしら?
などなど、手続き、特に会計処理なんかは悩むことになると思われます!
なので今回は、法人成りしたあとに必要な手続き、資産、負債の引き継ぎ方法、仕訳方法を解説していきます。
個人事業主から法人成りした場合は個人事業主、法人のそれぞれで処理が必要
個人事業主から法人成りした場合、個人、法人で別の処理が必要となります!
必要な資産・負債を法人へ引き継ぎ、収入や費用は引き継げない
基本的には個人側では①法人への資産への売却、②負債の引き継ぎ処理を行い、法人側では①資産の買い取り、②負債の引き受けをおこないます。しかしすべての資産、負債を個人から法人へ引き継ぐ必要はありません。
また、個人と法人は別人格ですから、収入や費用の法人への引き継ぎはできません。
個人事業の廃業届・個人事業確定申告の提出
引き継ぐべき資産、負債をすべて法人へ引き継いだあと、個人事業廃業届の提出など廃業の手続きを行います。また個人事業におけるその年の売上や利益は事業所得になりますので、確定申告をします。
法人設立後の会計処理
設立して間もない法人の場合は、まずは個人事業で処理していた勘定科目をそのまま法人で使ってもとくに問題はありません。
ここでポイントとなるのは、やはり資産・負債の引継ぎ!
特に以下の引継ぎ処理は大事です。
- 棚卸資産
- 固定資産
- 売掛金などの債権
- 借入金などの債務
くわしくは後述しますが、①棚卸資産や固定資産は、法人が個人から買い取ったものとして処理します。また、②債権債務を引き継ぐにはメリット・デメリットがあるので注意が必要です。
個人事業主から資産を引き継ぐときの仕訳上の注意点
法人成りして個人事業から資産を引き継ぐさい、仕訳上でいくつかの注意点があります。
棚卸資産を引き継ぐ場合
棚卸資産を法人へ引き継ぐ場合は、その商品をそのまま法人へ時価で販売したとして処理します。
したがって、①個人側では「売上」になり、②法人側では「仕入」になります。
このとき個人での売上を低くしたいなと考えるかもしれませんが、税務上著しく低い金額で販売した場合には、「通常の販売価格×70%」で販売したものとみなされてしまいます。
つまり、通常価格の50%で販売した場合には差額の20%に余計な税金がかかってしまうんですね。ここだけは注意してください!
でも逆に言えば、「通常の販売価格×70%」程度の金額までであれば値下げは認められるということです!覚えておいてください。
例)時価10万円の商品を7万円で個人から法人に引き継いだ。
《個人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 70,000 | 売上高 | 70,000 |
《法人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕入高 | 70,000 | 現金 | 70,000 |
固定資産を引き継ぐ場合
法人に土地や建物、備品などの固定資産を引き継ぐ場合、個人が法人へその固定資産を時価で売却したとして処理します。
なので①法人では固定資産の取得、②個人では資産の種類に応じて事業所得(雑収入)or譲渡所得(事業主借)が必要です。
- 通常の固定資産➡譲渡所得(事業主借)
- 使用可能期間が1年未満の固定資産➡事業所得(雑収入)
- 10万円未満の固定資産➡事業所得(雑収入)
- 取得価額が20万円未満で3年均等償却した資産➡事業所得(雑収入)
通常の固定資産の場合、役員個人に譲渡所得の申告が必要になるので注意が必要です。
そして法人側では建物や備品などの減価償却資産について、法人側では中古資産の耐用年数を用いて減価償却を行います。
通常の固定資産の仕訳
例)事業で使っていた車(帳簿価額30万円)を40万円で法人に引き継いだ
《個人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 400,000 | 車両運搬具 | 300,000 |
事業主借 | 100,000 |
《法人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
車両運搬具 | 400,000 | 現金 | 400,000 |
また、金額を小さくして、個人の税金を小さくしたいと考える方がいると思いますが、棚卸資産と同じように、著しく低い金額で販売した場合には、「通常の販売価格×50%※」で販売したものとみなされます。
(※棚卸資産は70%でしたが固定資産は50%という点が違う点です)
例)事業で使っていた車(帳簿価額30万円)を20万円で法人に引き継いだ
《個人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 200,000 | 車両運搬具 | 300,000 |
事業主貸 | 100,000 |
《法人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
車両運搬具 | 200,000 | 現金 | 200,000 |
少額の固定資産の仕訳
例)事業で使っていた机(帳簿価額5万円)を5万円で法人に引き継いだ。なお個人の側では机は消耗品費として一括で費用処理している。
《個人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 50,000 | 雑収入 | 50,000 |
《法人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
消耗品費 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
リース資産を引き継ぐ場合
役員個人で契約していたリース資産を法人へ引き継ぐ場合は、一般的にリース会社との間で法人名義へ契約変更をします。
法人名義へ契約変更したら、会計処理をするのですが、賃貸処理(オペレーティングリース)の場合は特に引継ぎ仕訳はありません。
逆に個人においてリース資産を計上(ファイナンスリース)してる場合は、固定資産を引き継ぐ場合と同様に、時価で売却したものとして処理し、減価償却についての処理も同様に中古資産の耐用年数で処理していきます。
そして、リース期間満了までの残債務についても、負債の部に「リース債務」という勘定科目を使用し、リース料を支払う都度、「リース債務」残高を取り崩すようにしてください。
例)個人のリース契約を法人に引き継いだ。このリース取引はオペレーティング・リース取引であり、毎月リース料5万円が計上されている。
《個人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕訳なし |
《法人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕訳なし |
例)個人のリース契約を法人に引き継いだ。このリース取引はファイナンス・リース取引であり、個人の側でリース資産・リース債務が100万円ずつ計上されている。
《個人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
リース債務 | 1,000,000 | リース資産 | 1,000,000 |
《法人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
リース資産 | 1,000,000 | リース債務 | 1,000,000 |
以上が棚卸資産、固定資産の引継ぎでした。
続いて債権・債務の引継ぎですが、こちらは実はメリット・デメリットがあるので、そもそも引継ぎするかどうか?から決める必要があります。
個人事業主の債権・債務の引継ぎはメリット・デメリットがある
売掛金などの債権や借入金などの債務も法人へ引き継ぎたい!という方もいるでしょう。
しかし、債権債務の引き継ぎにはメリット・デメリットがあるので慎重に検討した方がいいです!
売掛金や買掛金の引き継ぎ
引き継ぐ場合は、売掛金などの債権は時価(債権額から回収不能金額を差し引いた金額)で法人へ引き継ぎます。
しかし、売掛金などの債権は引き継がないのがオススメです!
理由は、端的にいうと手続きが煩雑になるデメリットがあるからです。
これは、法律的には個人から法人への「債権譲渡」にあたり、債務者保護の観点から、債務者の同意を得る必要があるんです。
しかも、個人で発生した債権なので個人として回収すれば問題なく、また個人、法人どちらにおいても税金の計算に影響を与えることもありません。
なので、法人へ引き継ぐメリットは特にないと言い切れます。
同じような考え方で、買掛金についても法人へは引き継がず個人の債務として支払を完了させた方がいいと考えられます。
借入金の引き継ぎ
銀行からの借入金を法人へ引き継ぐ場合は、事前に銀行へ相談が必要です!
なぜなら、個人に貸していた融資を法人へ変更する場合、改めて審査が必要になるからです。
ちなみに法人として新たに審査される点は・・・
- なぜ法人成りをするのか?
- 法人としての今後の収支計画はどうなるのか?
- 返済能力はあるのか?
というところがチェックされるでしょう。
銀行の審査が通れば、引継ぎ=「債務引受」が可能となります。
個人事業主の借入金を、法人として「債務引受」する
そして「債務引受」には2種類あります。
<重畳的債務引受> | <免責的債務引受> |
会社が個人と一緒に債務引受をすること。 ・借入金を返済するのは会社 ・個人事業主の債務は免除されたわけではなく、債務者として会社を追加する |
会社が単独で債務引受をすること ・借入金を返済するのは会社 ・個人事業主は連帯保証人となる(個人は一義的には債務を免除される) |
いずれの場合も、法人が新たな「借入金」をしたものとして処理します。
ただ、個人が債務超過で合った場合は注意が必要です。
なぜなら、債務超過を法人が肩代わりしたと見られた場合には、その経済的利益が発生したとみなされる可能性があるからです。
なので、債務超過の場合は、役員報酬とならないように、法人と個人間の金銭消費貸借契約を締結し、少なくとも借り入れと同額の利子負担を負い、利子とともに返済していく必要があるでしょう。
例)個人でしていた1000万円の借入金を法人A社へ債務引受した。
《個人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
借入金(銀行) | 10,000,000 | A社借入金 | 1,000,000 |
《法人側》
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
役員貸付金 | 10,000,000 | 借入金(銀行) | 10,000,000 |
そもそも銀行が法人への融資を実行してくれない可能性もあるので、そのまま法人へ引き継がず、個人として完済することも念頭に置いておいた方がいいでしょう。
オススメは可能であれば一旦、個人の借入金を返してしまう
可能であれば個人の借入金を一旦返してしまい、法人として新たに借入するのがシンプルかつ税務上のリスクがなくオススメです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
借入金のところは難しかったですね。
借入金がなければ頑張れば独力でもできるかな~といったところ。
借入金がある場合は、いわずもがな税理士さんに相談するのがオススメです。
また、法人のその他の申告も、個人のときに比べると格段に煩雑になるので、やっぱり法人成りを機に良い税理士さんを探すのが私的にはオススメですね。
良い税理士さんの探し方はコチラの記事を参考にしてください👇
とはいえ、事業の規模が大きくなってきたときに、法人成りは有効なテクニックですので、是非検討してみてください!
それでは、また!
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