ご質問をいただきました。

インボイス制度と共に始まった経過措置である2割特例制度についてのご質問ですね。
実際、2割特例制度は「事前届出が不要」で「計算が楽」と言われており、適用できるのであればしたい、と思っている方も多いと思います。
しかし実際には、注意しなくてはならない点もいくつかあります。
今回は、2割特例の概要と、注意点についてみていきましょう。
2割特例とは?特徴3つを確認
2割特例とは、2023年度税制改正で創設された制度です。
インボイス制度の導入を機に免税事業者から課税事業者になる事業者の負担を軽減する目的から作られました。
ポイントは次の3つです。
ポイント1:課税売上に係る消費税の8割を控除
2割特例では、納める消費税を次のように計算します。
(引用元:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和5年4月改訂)©国税庁)
※あくまで計算イメージなので、詳細な計算は後述します。
ポイント2:事前届出不要
2割特例は事前届出が不要です。
申告書の第一表の右側にある「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」という欄に〇(マル)をすれば適用できます。
この欄は一般課税用・簡易課税用それぞれにあります。
【一般課税用・消費税申告書】
(引用元:消費税及び地方消費税の申告書©国税庁)
【簡易課税用・消費税申告書】
(引用元:消費税及び地方消費税の申告書©国税庁)
ポイント3:その都度選択できる(2年しばりがない)
消費税の計算方法(一般課税や簡易課税)は、選択後、最低2年間続けなくてはなりません。
いわゆる「2年しばり」があるのですが、2割特例にはそれがありません。
申告の都度「一般課税か2割特例か」「簡易課税か2割特例か」と選択できます。
(引用元:インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答(2023年3月31日時点)©財務省)
なお「簡易課税か2割特例か」の選択をしたい場合には、対象の課税期間の末日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
2割特例の納税額の計算方法
2割特例の納税額は、次のように計算します。
2割特例の申告に必要な書類
2割特例の申告で必要となる書類は次の通りです。
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(一般課税用または簡易課税用)第1表
- 消費税及び地方消費税の確定申告書第2表
- 〔付表6〕税率別消費税額計算表
第1表は、簡易課税の選択の届出を対象課税期間の末日までに出していれば簡易課税用を、そうでないなら一般課税用を使います。
なお、付表6は2割特例の制度の開始に伴い新たに設けられました。
書式はこちらです。
(引用元:税率別消費税額計算表〔小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置を適用する課税期間用©国税庁)
2割特例の注意点
「2割特例は事前届出不要、2年しばりもない。計算も楽」と言われます。
計算も申告も確かに難しくありません。
ですが、適用できるかどうかの判定が大変です。
そこで、適用できるかの判定する際に、注意すべきポイントをみていきましょう。
基準期間の課税売上高に注意
2割特例は、インボイス制度の開始を機に、やむなく免税事業者から課税事業者になる事業者のための負担軽減措置です。
つまり「インボイス制度がなければ納税義務を負うこともなかった」事業者が対象です。
言い換えると「インボイス制度があろうがなかろうが、納税義務が生じる事業者は2割特例の対象外」となります。
そのため「基準期間の課税売上高は1000万円以下かどうか」をまず意識しなくてはなりません。
(引用元:インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答(2023年3月31日時点)©財務省)
課税事業者選択届出書との関係に注意
課税事業者選択届出とは、基準期間の課税売上高が1000万円以下であるため本来納税義務がないにもかかわらず、あえて課税事業者になるための手続きをいいます。
消費税課税事業者選択届出書を、対象としたい課税期間の初日の前日までに提出することが必要です。
この届出書を提出した場合、2023年10月1日を含む課税期間は2割特例の適用を受けられません。
もし適用を受けたいのなら、2023年10月1日を含む課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出しなくてはなりません。
ただし、課税事業者の選択をしたままでいても、2割適用を受けられないのは2023年10月1日を含む課税期間のみです。
翌課税期間からは2割特例を受けられます。
消費税法の平成28年改正法附則の第51条の2第1項第1号が「五年施行日(2023年10月1日)を含む課税期間」に限定しているからです。
引用元:消費税法(施行日:2023年10月1日)|e-gov
納税義務の免除の特例に注意
上記の他、納税義務の免除の特例がある場合も2割特例を受けられません。
この免除の特例には、次のようなものがあります。
- 特定期間において課税売上高と給与等の支払額の合計額のいずれかが1000万円を超えることで納税義務が免除されなくなるケース
- 相続・合併・分割により納税義務が免除されなくなるケース
- 新設された法人の資本金が1000万円超であるため納税義務が免除されなくなるケースなど
なお、相続の場合、インボイス(適格請求書)の発行事業者としての登録が相続開始日以前であるなどの条件を満たせば、2割特例を受けられます。
高額な資産を購入した場合に注意
次のような事情で、納税義務の免除が受けられなくなった課税期間も要注意です。
基準期間の課税売上高などが1000万円以下となっていても、2割特例は受けられません。
- 課税事業者選択届出書の提出で課税事業者となった後2年以内に一般課税で調整対象固定資産※1の仕入れ等をした
- 特例で納税義務が免除されなくなった新設法人等が一般課税で調整対象固定資産の仕入れ等をした
- 一般課税で高額特定資産※2の仕入れ等をした
※1:調整対象固定資産とは、備品や機械などの棚卸資産以外の資産で購入の対価が税抜で1取引につき100万円以上のものをいいます。
※2:高額特定資産とは1取引につき税抜1000万円以上となる棚卸資産や調整対象固定資産を言います。
「一般課税で高額な資産を購入したら2割特例が受けられなくなる可能性がある」と意識するとよいでしょう。
課税期間の特例の適用に注意
届出により、課税期間を1カ月や3カ月にしている場合も2割特例を受けられません。
まとめ
いかがだったでしょうか?
2割特例は、事前届出が不要で手続きが簡単な一方、適用できるかどうかの判定が難しい部分があります。
また、簡易課税と同じく還付はありません。
適用できるかどうか、また適用すべきかどうか、自信がない場合には、税理士に相談してみてください。
今後も税務に役立つ記事を発信していきますので、またお越しいただければ嬉しいです。
それでは、また!
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